生理学的システムの成長と発達
各種の生理学的システムの成長と発達にばらつきがあることは、特に成長が加速する時期において、傷害の主要な危険因子の一つと考えられます。
例えば、骨格構造が急速に成長するのに伴い、筋系はそれに合わせて長さ(骨の成長がもたらす張力を正常化するため)と大きさを増大させ、力の発揮能力を向上させることで、大きく重くなった骨格を支持し、動かせるようにしなくてはなりません。
ところが、実際には、先に骨格構造が成長することによって、筋組織の形態学的適応が刺激されます。
したがって、骨の成長と、それに続いて起こる筋の長さの増大には、固有の時間差が存在します。
このことは、若年アスリートにおける骨端線の牽引損傷の発生に影響を及ぼし、サッカー選手で特に多発するのは11~14歳、さらに男子の場合には13歳以下と14歳以下の年齢層に最も多くみられます。
この骨と筋腱複合体の成長速度のずれは、弛緩時に関連組織が受ける力を増大させ(先行研究では組織への前負荷と呼ばれる)、また骨端線の牽引損傷を引き起こす要因の一つと考えられています。
筋の長さのずれとは
筋の長さにもずれがあることが報告されています。
筋横断面積の成長にも、同じくずれがあることが報告されており、筋横断面積の成長が遅れて生じることは、神経筋コントロールの方法にも変化をもたらし、動的安定性をより困難にします。
その理由の一つとして、レバーアーム長があとから変化する結果、身体の重心が高くなり、またそれに伴って力を緩和する関節トルクが増大する一方、それに見合った筋肥大や筋力が不足していることが考えられます。
加えて、成長期のピークには、下肢と体幹の成長速度にもずれが生じ、長骨(四肢)が短骨(体幹)より先に成長のピークを迎えることが明らかになっています。
以上のことから、若年男子サッカー選手においては、成長期の開始からPHVが出現する前後の時期まで、筋骨格系の成長速度にずれが存在することに留意し、これらの重要な成長期において、オーバーユース障害や骨端線損傷の発生リスクを低減するように務めなければなりません。
思春期のぎこちなさ
四肢長が急速に増大する結果、若年サッカー選手は、一時的に運動スキルのパフォーマンスが低下する時期を経験する可能性があります。
この時期を「思春期のぎこちなさ」と呼びます。
思春期には、解剖学的構造が継続的に成長し、神経筋機能が変化することによって、運動制御力の低下が起こる可能性があります。
この時期には、それまでに獲得されたスキルや動作パターンを再度完成させる必要が生じうることが先行研究で示唆されています。
これらの研究成果は、成長の加速する時期は受傷リスクの主要メカニズムの一つである可能性を示唆しており、そのため、専門職は適切なシステムも用いて、若年選手を監視する必要があります。
引用・索引Michaud PA.Renaud A,and Narring F, Sport activities related to injuries A surver among 9-19 year olds in Switzerland,Inj Prev 7:41-45,2001.
Injury Prevention in Youth & Teen Sports