炎症と代謝性疾患
T2DM(Type 2 diabetes mellitus:2型糖尿病)は多くの場合、インスリン抵抗性の悪化により進行します。
これは、長い間に、食後の血糖値を標準値に戻すため、より多くのインスリンを必要とするようになることを意味します。
インスリン抵抗性を生じさせる因子は多数ある中で、炎症反応はそのひとつになります。
インスリンの役割
インスリンの主な機能は、筋と脂肪細胞へのブドウ糖(グルコース)の取り込みを刺激することです。
この点に関しては筋が重要であり、インスリンが介在するブドウ糖の処理全体の75~80%を筋が担っています。
血糖値が上昇するにつれて、インスリンを作り出す膵臓の細胞が刺激され、インスリンを産生し血中に放出します。
循環インスリンは、筋線維にある受容体に結合し、ブドウ糖輸送タンパク質を頂点とする細胞のシグナル伝達カスケードを誘発します。
それにより、筋線維膜に移動したブドウ糖輸送タンパク質4(GLUTE-4)が、濃度勾配の下方の細胞にブドウ糖を取り込むことが可能になります。
標準的な耐糖能を持ってる人では、インスリンが筋線維上の受容体はいくつかの変化を遂げます。
受容体の形、すなわち構造が変化して、リン酸塩として知られる分子が受容体の細胞の内側にあり、受容体を「活性化する」特定の場所に化学的に結合します。
活性化したインスリン受容体が、今度は細胞の細胞質にあるインスリン受容体基質(IRS:insulin receptor substrates)といわれる分子に結合してこれを活性化します。
活性化したIRS分子が、細胞内のシグナル伝達カスケードを引き継ぎ、最終的にはGLUTE-4の活性化をもたらします。
炎症とシグナル伝達カスケード
ところが、炎症は、このシグナル伝達プロセスを妨げることが知られています。
具体的には、TNF-αが、酵素を刺激してIRS分子を変化させ、インスリン受容体との相互作用を妨げ、これにより、インスリンによるシグナル伝達カスケード全体を妨害します。
TNF-αに加えて、脂質代謝のいくつかのメディエーター、例えば、長鎖脂肪酸コエンザイムA(LCFA-CoA)やジアシルグリセロールの蓄積も、同じ酵素を刺激して、インスリンがカスケードに送るシグナルを妨害します。
LCFA-CoAとジアシルグリセロールは、筋線維内の脂質の貯蔵と消費がアンバランスな状態(すなわち、慢性的なエネルギー超過の状態の下で)において、増加し蓄積される傾向があり、この状態がインスリン抵抗性とT2DMに関連しています。
要するに、インスリン抵抗性の発現の大部分は、インスリンが正常な受容体に結合するにもかかわらず、インスリン結合の下流にある、GLUTE-4を細胞質から細胞膜まで移動させるシグナル伝達カスケードが著しく損害されることが原因になります。
引用・索引Kiens B. Skeletal muscle lipid metabolism in exercise and insulin resistance. Physiol Rev 86: 205–243,2006.
Krook A, Wallberg-Henriksson H, and Zierath J. Sending the signal: Molecular mechanisms regulating glucose uptake. Med Sci Sports Exerc 36: 1212–1217, 2004.
Dr. Jason Fung - 'A New Paradigm of Insulin Resistance'