レジスタンストレーニングと受傷率
レジスタンストレーニングはウェイトマシン、フリーウェイト、油圧マシン、エラスティックバンド、アイソメトリックス、メディスンボール、および自重エクササイズなどを用いて行うトレーニングになります。
レジスタンストレーニングは、スポーツをする若年および成人アスリートの受傷率低減に有効であることが証明されています。
さらに、あらゆる若年者向けのレジスタンストレーニングには適切なリフティング技術、安全のための手順、および特異的な漸進手法が伴っていなければなりません。
障害予防とレジスタンストレーニング
障害予防のメカニズムとして、レジスタンストレーニングが靭帯、骨、腱、および軟骨などの結合組織の構造にもたらす効果が考えられます。
レジスタンストレーニングが結合組織構造のサイズ、密度、および力学的特性を変化させ、それによって若年スポーツの受傷リスクが低減する可能性があります。
レジスタンストレーニングにはそのほか、筋の動員と活性化、および筋群内と筋群間におけるコーディネーションの改善といった効果もあります。
筋と結合組織の強化はアスリートがより大きな力に耐えることを可能にし、若年選手の障害耐性を高める上で役立ちます。
若年者のレジスタンストレーニングにおいては通常、短期間(8~20週間)で筋力が約30~50%増加します。
野球肘とフィジカルコンディション(投球側肩甲上腕関節の内旋角制限(非投球側より25°)がある場合、肩肘疾患の危険因子となる)
体幹強化を含めたレジスタンストレーニング
体幹の筋群は野球のピッチング動作において特に重要になり、体幹強化を含めたレジスタンストレーニングは若年野球投手の受傷リスクを低減する可能性があります。
ピッチングと体幹筋力の力の伝達
ピッチングにおいては、ピッチング効率を最大限に高めるために、脚部と体幹が発揮した力が協調された動作で投球腕とボールに伝達したければならず、体幹の筋力が十分にあれば、肘の筋系に要求される力が減少し、受傷リスクが低減する可能性が考えられます。
力の伝達には体幹の筋力だけではなく、適切なタイミングと動きの流れが求められます。
Aguinaldoらの研究(ピッチングと体幹筋力の力の伝達)
Aguinaldoらの研究では、体幹を回旋させるタイミングは若年者、高校生、大学生、およびプロ投手の間で有意に異なることを明らかにしました。
それによると、上位レベルの投手は踏み出し足が接地してからホームプレートへ向けて体幹を回旋させ始めるのに対し、下位レベルの投手は踏み出し足が接地する前にホームプレートへ向けて体幹を回旋させ始めます。
体幹の回旋と肘の障害の関連
体幹の回旋のタイミングは肘の障害と関連している可能性があり、踏み出し足が接地する前に体幹を回旋させると、肘にかかる外反ストレスが増大します。
そのほか肘への外反ストレスには、非投球腕側への体幹の側方傾斜と肩関節外転とが関連していることを明らかにした研究もあります。
体幹の非投球腕への側方傾斜は、上腕の投球位置への挙上(肩関節外転)における要因になります。
これは、肩関節を90°外転させると肘への外反ストレスが減少する考えられているためです。
総じて体幹を適切に強化するためには、回旋ROM、筋力、持久力、および速度の向上に重点を置かなければならず、これらの変数を最大限に伸ばすために、若年投手は体幹強化トレーニングに取り組む必要があります。
レジスタンストレーニングとフィジカルコンディショニングとの組み合わせの有益性
レジスタンストレーニングが障害予防にもたらす有益な効果は、他のフィジカルコンディショニング手法と組み合わせることでさらに増大します。
※ある種のフィジカルコンディショニングを組み合わせ、ひとつの包括的な障害予防エクササイズ戦略としたものを神経筋トレーニングと称することができます。
神経筋能力が十分に最適化されていないことは、リトルリーグ肘(LLE)の危険因子の一つであると推測されています。
それは、野球のピッチングが高速で、しかも反復して行われる動作のためです。
特に、発達途中の若年者の肘を受傷リスクにさらしてしまうため、神経筋トレーニングプログラムを取り入れることで、LLEの予防効果が期待できます。
他の競技動作と同様に、野球のピッチングでは、特に腕を素早く動かすコッキング期とアクセレーション期において身体各セグメントの運動学的一貫が求められるために、神経筋トレーニングプログラムは下肢から体幹、そして上肢への効率的なエネルギー伝達を促進することによって神経筋コーディネーションを改善し、その結果、障害リクスを低減する可能性が高くなります。
野球肘と基礎運動技能(ファンクショナルムーブメントスクリーンを理解することが投球障害予防につながる)
野球選手におけるオフシーズンからプレシーズンへのトレーニング(筋力と爆発力をともに訓練するエクササイズを組込まなければならない)
引用・索引 NSCA JAPAN Volume19 Number3 pages17-18