マグネシウム(Mg2+)とは
マグネシウム(Mg2+)は人の細胞内区画においても2番めに豊富な陽イオン(プラスに帯電したイオン)であり、筋、神経、酵素、および、細胞の諸過程に関連しています。
体内でMg2+が果たしているは極めて重要で、筋小胞体(SR)内外へのCa2+輸送、解糖系代謝経路の調節、酵素の運搬と取り込み、アデノシン三リン酸の生成、300種類以上の酵素反応の活性化及び補因子、筋収縮の調節および神経インパルスの制御、免疫機構の安定化、そして最近では、細胞の分裂と老化などが挙げられます。
Mg2+と筋収縮
筋収縮の理論として、興奮収縮連関(ECC)は、活動電位が筋細胞の収縮を引き起こす一連の過程になります。
アセチルコリンが神経筋接合部のニューロンから放出され、それがMg2+の助けによってシナプス間の受容体と結合し、ナトリウム(Na+)とカリウム(K+)の移動によって、筋鞘の脱分が起こり、この活動電位は筋鞘に沿い、T管系を通じてSRに達します。
SRでは、細胞極性の変化によりMg2+の移動が生じ、それによってSR内のリアノジン受容体(RyR)が開いて、筋小胞体から筋原線維へのカルシウムの流入が可能となります。
カルシウム濃度が高まり、カルシウムが細いアクチンフィラメントに存在するトロポニンと結合することによりフィラメントの構造に変化が生じます。
この変化によって、アクチン結合部位がミオシン頭部と結合することが可能になり、クロスブリッジ(架橋)が形成され、ここでATPが作用し、筋収縮の「パワーストローク」が促進されます。
※筋弛緩は、特異的なポンプ機構の作用により、Ca2+がSRに戻されることで生じます。
Mg2+の筋収縮の役割
筋収縮は、主に一価および二価の陽イオンであるNa+、K+およびCa2+によって調節されていると推測されています。
しかし、最新の生体内試験の結果から、そこにMg2+も加えるべきであると生理学者は考えています。
根拠として、Mg2+は筋収縮に不可欠な構成要素であり、Ca2+および細胞内phバランスの重要な調節因子であるからです。
Mg2+がカルシウムの天然のアンタゴニスト(拮抗剤)、調整因子、および輸送体として機能しない場合、カルシウムの過負荷が発生し、その結果、酵素分解、アシドーシス(酸血症)および細胞死が引き起こされます。
※細胞の恒常性は、Mg2+が主要な酵素反応を活性化させ、水素イオン(H+)を輸送しイオンチャネルとタンパク質輸送体を調節し、特にECCにおいて、細胞の適応的再構成を引き起こす働きをすることで維持されています。
クロスブリッジ形成とMg2+
クロスブリッジの解離および、力発揮の速度にMg2+が影響を及ぼしていることが明らかになっています。
これは、Mg2+が、Ca2+の濃度勾配および輸送を通じて、トロポニンの発現を制御しているためであると考えられています。
また、Mg2+はアクチンなどのタンパク質の安定化させている可能性もあり、個々のアクチンは、球状のモノマーの形でATPとMg2+の分子に結合しており、その分子が蝶番のような構造をすることでこの科学的構造複合体に影響を及ぼし、これを安定化させることで、サルコメア内のアクチンバックボーンが形成されています。
このATPとMg2+の結合がなければ、アクチンはクロスブリッジ形成前に変性してしまうからです。
弛緩局面と筋収縮
弛緩局面は、Ca2+が筋線維のSRに戻されるポンプ作用に依存しています。
このポンプ作用は特異的な機構によるものであり、そこでもATPとMg2+が必要とされ、Mg2+がATPなどの化学反応の補因子を固定したり、酵素はを活性化させたりする作用を持つためです。
カエルから分離した組織を用いた研究において、Ca2+の消失速度を測定したところ、Mg2+の存在下では、Ca2+輸送が1.6倍増大することが明らかになっており、筋の収縮と弛緩の複数要素に、Mg2+が関与していることが明白になっています。
引用・索引Aagaard P, Magnusson PS, Larsson B, Kjaer, M, and Krustrup P. Mechanical muscle function, morphology and fibre types in lifelong trained elderly. Med Sci Sports Exerc 39: 1989-1996, 2007.
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