筋に収縮を繰り返し負荷すると、筋の収縮機能(発揮する張力あるいはパワーなど)はやがて低下します。
このときの筋細胞内を観察すると、機能の低下に伴い器官の損傷が起こる場合と起こらない場合があります。
前者を筋損傷(muscle damage)、後者を筋疲労(muscle fatigue)と呼ばれています。
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高強度運動による疲労
乳酸性アシドーシス
筋細胞内のPHは、安静時でほぼ7.1に保たれていますが、数分以内で疲労困憊にいたる運動を行うと6.5前後にまで低下します。
これは、解糖系(glycolytic pathway)の代謝が亢進し、乳酸(lactic acid)が産生されるためです(乳酸は、水溶液中ではHを放出するため)。
乳酸の蓄積によって、PHが低下する現象を乳酸性アシドーシス(lactic acidosis)といい、長い間、筋疲労の主因と考えられてきましたが、最近の研究により生理的条件に近い温度下(30℃以上)ではPHの低下は、筋の収縮機能にほとんど影響がでないことが明らかになりました。
クレアチニンリン酸の減少
運動強度が極めて高く、30秒以内で疲労困憊となってしまうような運動では、アデノシン三リン酸(ATP)はクレアチンリン酸(phospphocreatine:PCr)から供給されます。
このため、運動中はPCrは減少し、ほぼ枯渇状態となり、すると、十分なATPが供給されなくなり、筋疲労が起こります。
無機リン酸の蓄積
安静時では、筋細胞内の無機リン酸(Pi)の濃度は1~3mMですが、強度の高い運動を行うと最大30mM程度にまで高まります。
これは、クレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)が関与した反応において、Piが過剰に産生されるためになります。
高強度運動による筋疲労では、Piの蓄積に起因する次のような現象が、筋張力低下の主な原因となります。
- ①Piの濃度が高まるとその一部は、高濃度のCa2+が存在する筋小胞体(SR)内腔へと流入する。
- ②PiはCa2+と結合しやすい性質を持っており、内腔においてPi-Ca2+結合物が形成される。
- ③結合物となったCa2+は、細胞質へと放出されない。
- ④そのため、SR Ca2+放出チャンネルが開口しても、細胞質のCa2+濃度が十分に高まらず、張力の低下が起こる(筋原線維の収縮力はCa2+濃度に制御されている)
※Piが蓄積しないCK欠損動物では収縮を繰り返しても収縮時Ca2+濃度および張力は低下せず、このことは、Piの作用を裏付ける事実になります。
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引用・索引 スポーツ・運動生理学概説
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