脳と運動学習
動作や運動の技能(スキル)獲得は、スポーツや体育の場面では効率的に身体を動かす技術を身につけることや、細やかな手仕事を行う場面では正確で繊細な動きを身につけることを意味します。
しかし、技能の獲得とは、体幹や手足の動きの効率性ばかりではなく、脳や神経系からの側面で考えると、「シナプスとシナプスの選択的つながりの強化(Consolidation)」を示しています。
運動学習
トンプソン(Tompson,R.E.)らは練習や反復で動きが変わるのはシナプスに「可逆性(Plasticity):変わる性質」があり、生理的形態的に変化が起こるからであると指摘しています。
シナプスの可逆性は技能の獲得にとっては重用な機能的構造変化を可能にします。
※この過程を「運動を学習する」ということで運動学習「Motor Learning」といいます。
運動学習は運動神経系だけではなく視覚、聴覚、体性感覚などの知覚と認知も関与し、動きが未熟である場合、感覚からの情報がないと上達しないといわれており、感覚のトレーニングが重用であると指摘されてます。
さらに、動きの改善には注意や集中力が必要になり、動作の技能には運動技能(Motor Skill)だけではなく、認知的技能(Cognitive Skill)も含まれ、その改善には運動だけではなく、「認知能力」も必要になります。
連続的運動学習と適応的運動学習
運動学習には、ピアノのように指の順序が決まっている動作を繰り返し行い運動遂行能力を向上させようとする「連続的運動学習」と、ボールを目で追い道具に当てたりする動作のように、感覚情報に基づいて動作を達成するような「適応的運動学習」の2つの種類があります。
新しい学習を行うときには、大脳基底核、小脳、大脳皮質の広範囲の部位が関連し学習の時間的経過は早い学習期、ゆっくりとした学習期、学習保持に分けることができます。
初期には運動技能は1回の練習内の繰り返しで改善がみられ、数回のセッションでさらに改善され、時には練習なしで改善が起こり、考える事なく運動を遂行することができるようになり、最終的には長時間運動をしなくても技能が保持されるようになります。
学習の初期には連続的学習も適応的学習も共通して海馬や側頭葉内側が活動し、その後、前頭連合野、頭頂葉連合野が関与します。
「連続的学習」では頭頂葉連合野から基底核系、運動皮質へ、「適応的学習」では小脳系、運動皮質へと移行します。
引用・索引スポーツ・運動生理学概説 単行本 – 2011/3/1山地 啓司 (著), 田中 宏暁 (著), 大築 立志 (著)