ウォーミングアップの目的は障害予防とパフォーマンス向上になります。
ウォーミングアップが引き起こす生理的効果
代謝効率の上昇
体温の上昇は筋でのグリコーゲンや高エネルギーリン酸(ATP、PCr)の利用を促進させます。
グリコーゲンや高エネルギーリン酸は運動時における利用度の高いエネルギー源になり、利用の促進により、素早い筋の張力発揮が可能となりパフォーマンスの向上につながります。
筋の粘性抵抗軽減や弾性の上昇
筋温上昇は筋や腱の粘性(粘り気)を低下させます。
筋や腱の粘性が低下することで、より少ないエネルギーで筋収縮ができるようになり、さらに、筋温上昇は筋の弾性(弾みやすさ)を上昇させます。
神経伝達速度の上昇
体温上昇は神経伝達速度を速めます。
神経伝達速度が速くなることで、脳からの命令はウォーミングアップ前と比較して速く筋まで到達し、主運動中のより複雑な動きに、より速く、より正確に対応できるようになります。
活動筋に対する酸素供給の増加
ウォーミングアップは血流の再配分を引き起こし、消化器官などの非活動的な組織への血流量を減少させ、呼吸・循環器系の組織や骨格筋への血流を増やします。
また、ウォーミングアップによって上昇した体温は酸素解離曲線を右傾化させ、ヘモグロビンやミオグロビンから筋への酸素解離を増加させます。
※ウォーミングアップによって筋肉が酸性に傾くことでも、筋への酸素供給が容易になり筋への酸素供給がされやすくなることで、酸素を使った代謝がしやすくなり、主運動中における酸素借(酸素不足)の減少につながります。
運動前の酸素摂取量の増加
ウォーミングアップによって運動前の酸素摂取量は増加し、主運動開始直後から酸素を使った乳酸や脂質の利用によるエネルギー産生が素早く行われるようになります。
これにより、安静時の酸素摂取量増加は主運動開始直後から活動筋においてより多くの酸素消費を可能とし、糖の分解の過程で生じる乳酸の分解を高め、酸素借の割合を減少させます。
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ウォーミングアップと障害予防とパフォーマンス向上
障害予防
筋の温度が低い時、筋の血流量が少ない場合、筋の弾性は低く、さらに、冷えた筋は粘性抵抗が大きくなり筋の伸び縮みに対して柔軟な対応が出来なくなります。
このような状態で激しい運動を実施すると、筋・腱への負担は大きく、断裂する可能性が増します。
一方、ウォーミングアップにより体温が上昇すると、筋だけではなく腱や関節の結合組織の柔軟性が上昇し、関節可動域が大きくなり、これらの変化が障害予防に結びつくことになります。
パフォーマンス向上
ウォーミングアップによって俊敏な動きが可能となります。
この理由は神経伝達速度が速くなり、神経-筋の協調性が向上するためと考えられます。
さらに、呼吸循環機能の準備がされることもウォーミングアップの効果の一つであり、全身運動のパフォーマンス向上に対してより効果的になります。
※暑熱環境化での長時間運動を行う場合には、体温を上げすぎることは早期の疲労につながり、パフォーマンス低下の原因になるために注意が必要になります。
直腸温度(深部体温)が約38.7℃に上昇した時に身体的パフォーマンスが最大になる(平常温度の約30%増)
引用・索引 スポーツ・運動生理学概説