ストレッチングに関わる生理学的メカニズム
ストレッチング(Stretching)は「伸ばすこと」と訳され、運動やスポーツの領域においては「筋や腱を伸ばす運動」を指します。
ストレッチングの主な目的は「関節可動域を拡げる(柔軟性を改善させる)」ことであり、ストレッチングによる柔軟性の改善にはさまざまな生理学的メカニズムが関与しています。
筋や腱などの結合組織における力学的な特性の変化
結合組織により構造化されている筋や腱などの組織は粘弾特性を有しており、ストレッチングにより伸張させることで弾性(Stiffness)が減少し(伸張に対する抵抗が少なくなり)、伸展性が増大し柔軟性が改善します。
筋の機能に対する神経生理学的な変化
ストレッチングにより筋や腱などが伸ばされるとそれらに存在する筋紡錘(Muscle Spindle)やゴルジ腱器官(Golgi Tendon Organ)といわれる受容器が反応します。
これらの受容器で検知された変化によりそれぞれ伸張反射(Stretch Reflex)、自原性抑制(Autogenetic Inhibition)が生じます。
筋紡錘-伸張反射
筋紡錘は筋線維と並列に存在し、筋の長さ変化を検知しています。
伸張反射は筋線維で検知された信号がⅠa群線維を上行して脊髄に入り、運動ニューロンを興奮させ、その興奮により遠心性線維を介し伸張された筋を収縮させるものになります。
この反射は姿勢の保持に重要な役割を果たす他、伸張-短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle)を利用した爆発的な力発揮の際には有効活用されます。
※しかし、ストレッチング実施時において、伸張反射が生じることは柔軟性の改善の妨げとなり得ます。
ゴルジ腱器官-自原性抑制
ゴルジ腱器官は筋と腱の接合部に直列に存在し、筋の張力を検知しています。
自原性抑制はゴルジ腱器官で検知された信号がⅠb群線維を上行して脊髄に入り、抑制性の介在ニューロンを介して運動ニューロンに抑制作用を及ぼし、遠心性線維を介し関わる筋を弛緩させるものになります。
自原性抑制を生じさせるためには伸張反射が生じるまでの時間よりも長く伸張しなければならず、6秒以上伸張し続けることで筋が弛緩しはじめ、柔軟性が改善すると改善するとされています。
相反性抑制(Reciprocalinhibition)
この反射は主動筋群と拮抗筋群の関係にある両筋群において、一方の筋群を収縮させることによりその筋群における筋紡錘が反応し(筋の収縮によっても一時的に筋が伸張され、筋紡錘が伸張を検知する)、伸張反射によってその筋群の収縮力を高めるとともに、脊髄では抑制性の介在ニューロンを介して他方の筋群の運動ニューロンに抑制作用を及ぼし弛緩させるというものになります。
この反射を使うことで、ストレッチングにおいて伸張させたい筋群の拮抗筋群を他動的に収縮させることで伸張させたい筋群を弛緩させ、柔軟性を改善することが可能になると考えられています。
したがって、柔軟性を改善させるためにはいかに伸張反射を起こさせず、自原性抑制あるいは相反性抑制を生じさせるかが重要になります。
引用・索引スポーツ・運動生理学概説 単行本 – 2011/3山地 啓司 (著), 田中 宏暁 (著), 大築 立志 (著),
Muscle stretch reflex | Organ Systems | MCAT | Khan Academy

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