生体エネルギー学
パワーとパフォーマンス
スポーツパフォーマンスにおけるパワーとは、時間に対して行われる仕事量のことになります。
したがって、少ない時間での仕事が行われればパワーが大きいとみなされます。
高強度運動時の生体エネルギー機構に関する新しい知見
短時間の高強度運動時の生体エネルギー機構は3つ(クレアチンリン酸機構(ATP-CPr)、速い解糖系である乳酸性機構、遅い解糖系である有酸素性機構)に分けられます。
3つの機構がエネルギーを供給する時間帯は、通常、それぞれ運動開始後の0~10秒、10秒~30秒、30秒以降であるとされています。
しかし、高強度パワー運動時には、各エネルギー機構によるこのようなエネルギー供給時間は全く当てはまりません。
アデノシン三リン酸
筋におけるアデノシン三リン酸(ATP)産生の最初の主要基質はクレアチンリン酸(PCr)になります。
PCrの利用は、運動開始後の約10秒間に限定されるとされています。
つまり10秒以上続く運動に関しては、速い解糖系と遅い解糖系だけがATP供給機構であるとみなされます。
しかし、Jonesらの研究により、高強度運動中のATP産生に、PCrが継起的に貢献し、運動開始後5分を大きく超えて最大18分間にわたってPCrが利用されてることが示されました。
この研究結果は、空間的動員(Spatial Recruitment)とサイズの原理によって説明できます。
サイズの原理
サイズの原理とは、低閾値の小さな運動単位ではパワー要求を満たすことができない場合に、高閾値の大きな運動単位が動員されることです。
高強度運動と低強度運動の活性化
Houshらは、継続的なパワー発揮が必要な高強度運動は、低強度運動と比較して、時間経過とともにより大きな運動単位の活性化を引き起こすと結論づけました。
筋線維の継続的動員は、高強度運動中に10秒を超えてもPCrが利用される理由になると思われています。
すなわち、初期の運動単位のプールは10秒以内にPCrを使い果たしますが、継続的なパワー発揮能力の要求を満たすために筋線維が追加で動員されます。
新たに動員された筋線維がPCrを分解してATPを供給するために、筋全体においては数分間にわたって細々と継続的にPCrが消耗されることになり、このような代謝の考え方は、高強度運動開始後10秒以内に筋全体がPCrを使い果たすという考え方とは一線を画するものになります。
引用・索引Bangsbo J,Gollnick PD,Graham TE,Juel C,Kiens B,Mizuno M,Saltin B,Anaerobicenergy Production and O2Deficit Debtlelationship during exhaustive exercise in human J Physiologic422:539-559 1990

- 作者:山地 啓司
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