長距離選手のパフォーマンス向上のカギ
筋力、スピード、そしてパワーのが成功のカギを握る大半の競技とは異なり、長距離走は主に酸素の運搬と利用がその限界を決めます。
クライアントの走速度が上がれば酸素需要は高まり、スピードを有酸素性運動の範囲内に留め、それによって速いペースを維持できるようにするためには、運動中の筋、および心臓それ自体への酸素供給量が、酸素需要量と等しいかそれ以上でなければなりません。
酸素需要量が供給量を上回ると、運動は酸素非依存性(無酸素性)になり、たちまち疲労が生じます。
したがって、長距離選手としてパフォーマンスを向上するためには、運動中の筋への酸素供給量を高めて需要量の増大に対応する必要があります。
筋力トレーニングと心臓血管系
筋力トレーニングが肺から筋への酸素運搬料を高めること証明した研究は無く、酸素運搬の仕事を担っているのは心臓血管系になります。
1回拍出量(心臓が1回の心拍で送り出す血液の量)および心拍出量(心臓が1分間に送り出す血液の量)が多いほど、筋まで運ばれる酸素の量は多くなります。
さらに、筋におけるミトコンドリアの量が多いほど、得られる酸素を利用する代謝能は高くなります。
筋力トレーニング
伝統的な筋力トレーニングのように中程度の重量を1セットにつき10~20レップ挙上する、あるいは筋肥大および筋力向上を目的としたウェイトトレーニングでは、筋への酸素運搬能と筋における酸素利用能を増大させる効果はありません。
筋力と持久力の両トレーニングがもたらす生理学的変化は、そのほとんどが不都合なものになり、例えば、十分に多量で高強度の筋力トレーニングを行うと、筋線維の肥大が刺激され、その結果、体重が増加する場合がありますが、これはランニングの代謝コストを高めます。
さらに、収縮タンパク質含有量の増大によって起こる筋肥大においては、筋の面積当たりの毛細血管数とミトコンドリア密度があまり増えず、持久力の向上に悪影響をもたらす可能性があります。
持久力トレーニング
一方、持久力トレーニングは、筋における毛細血管数とミトコンドリア密度を増やして酸素の拡散と利用を促進します。
長距離のランニングは体重減にも効果があり、それによってランニング効率(一定のペースを維持するために用いられる酸素の量)を改善します。
また、持久力トレーニングは心臓に「体積効果」をもたらし、左心室の内径を増大させることで1回拍出量と心拍出量を最大限に多くすることを可能にします。
これに対し、筋力トレーニングは心臓に「圧力効果」をもたらし、左心室の壁厚を増大させます。
アメリカでのオリンピックマラソン出場者のトレーニング
米国では、オリンピックマラソン代表選考会出場者のトレーニング内容を調査したところ、このレベルの選手は筋力トレーニングをほとんど行っていないことが明らかになりました。
オリンピック選考会を控えた年の年間トレーニングにおいて、筋力トレーニングを行う頻度は男子選手で平均週1回以下、女子選手で平均週1.5回以下でした。
しかし、クライアントに筋力トレーニングを行わせていけないわけではなく、すでにランニングトレーニングの量を(距離と強度の両面において)最大限に増大している、ランニングの距離をこれ以上増やす身体的ストレスに耐えられない、またはランニングトレーニングに対する適応が遺伝的な限界に達してしまったという理由がない限り、必要がないというだけです。
引用・索引Effects of Performing Endurance and Strength or Plyometric Training Concurrently on Running Economy and Performance37-45
Marathon Running - 10 Best Training Tips

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