肘関節外反モーメントと内反モーメント
UCLの損傷は34Nmで報告されている
投球のたびに肘関節内側部の開口に反応して、内側開口を引き起こす外反モーメントに抵抗する内反モーメントが肘関節内側全体に発揮されます。
内反モーメントは引張応力を軽減し、肘関節外側周辺の圧迫を抑制し、ボールをリリースするまで前腕、手、ボールの加速を助けます。
投球中の外反モーメントは120Nmであることがわかっていますが、UCL(肘内側側副靱帯)の損傷は34Nmで報告されており、バイオメカニクスのトルク測定値と死体のトルク測定値との相違は、動的安定性の重要性を示しています。
肘関節動的安定性
肘関節をまたぐ筋群は動的なスタビライザーとして働き、それらは外反ストレスに対する主動筋、共同筋、共縮筋として機能します。
具体的には、上腕二頭筋、上腕筋、腕撓骨筋、上腕三頭筋、および一般的な屈筋-回内筋群(FPM:Flexor-Pronator mass)であり、内側開口に対して最も大きな抵抗力を提供します。
一連の投球動作中のFMPを筋電図分析でみると、神経伝達の減少と同時に起こるUCLの不十分な活動が明らかになっており、この観察に基づくと、UCLの完全性を保護するためには、弛緩性と神経の活動低下を相殺するためのS&Cが必要になります。
FPMは、上腕骨内側上顆に起始する筋群で、円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋、尺側手根屈筋、および浅指屈筋が含まれています。
UCLとFPMの間の拮抗作用は、正味の内反力を用いることによって外反トルクに対抗し、大きな関節適合角に達する際、最小限の動的安定性がFMPによって提供されます。
大きな適合角に達する際に、最小限の動的安定性がFMPによって提供され、0~5°の肘関節の屈曲(末端伸張)では、肘頭窩が肘頭突起に接触し、遠位上腕骨が肘を安定させます。
投球中の動的安定性の重要性
肘関節の屈曲が135°を超えると、橈骨頭と上腕骨小頭の接触が関節可動性を制限します。
投球中は動的安定性がきわめて重要になりますが、それは、初期のコッキングからボールのリリースまで、投球腕の肘関節が125~20°の間の屈曲角度を維持し、しまりの位置(関節面が一致し、靭帯および関節包が緊張し関節の遊びのない位置)に達しないためです。
動的な投球範囲を通してUCLを保護する最も重要なふたつの動的スタビライザーは、尺側手根屈筋と浅指屈筋になります。
肘が5~135°屈曲する間、これらの筋群は、主要な貢献者である尺側手根屈筋とともに肘関節内側の外反ストレス安定化においてUCLを補助します。
尺側手根屈筋と浅指屈筋解剖学的方向は、UCLに重なっているため、UCLとの間で並行な累積ベクトルを発揮して、強い内反トルクを生み出します。
球種の違いによる外反ストレス
前腕の回旋は、外反ストレスに対する第二の保護要素と言われ、速球とチェンジアップにおいて、MER(肩関節最大外旋)からボールのリリースまで前腕は回内しています。
対照的に、カーブを投げる際は、前腕はMERで回外しますが、そこでの外反トルクは最も大きく、回内運動(円回内筋の活性化)が行われないことにより、傷害の発生率がより高いことを説明することができると思われます。
前腕を回外、ニュートラルまた回内させて、外反ストレスに対する受動的抵抗を調べた死体研究は、野球の投球メカニクスを十分に反映してるとは言えず、それは前腕の回内が受動的な張力を和らげ、外反ストレスに対するUCLの不安定性を助長するという事実があるからです。
筋腱複合体が伸張される際、受動的な張力が外反/内反のサポートを提供し、そこでは不十分なUCLが前腕回外の下で受動的に安定化します。
受動的な安定化は高速での関節運動に若干の利点を提供しますが、神経の同時的発火を特徴とする尺側手根屈筋や浅指屈筋、および円回内筋の活動張力、筋力、および持久力が、肘関節内側のより大きな圧縮能力を示します。
引用・索引Aguinaldo A,Chambers H.Correlation of throwing mechanics with elbow valgus load in adult baseball pitchers.Am J sports Med37:2043,2009.

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