[caption id="attachment_17345" align="alignnone" width="627"] The Woodlands pitcher Devin Fontenot works to a Kingwood hitter during their game at KHS on May 1, 2015.[/caption]
投手の連鎖的な力発揮システム
投手の投球腕のピーク角速度と球速は、一般にキネティックチェーンと称される、投手の連鎖的な力発揮システムと関係があります。
キネティックチェーンとは、フォロースルー期までの各部位(剛体)の加速と減速を通じて、部位間でエネルギーを順番に伝達する仕組みになります。
キネティックチェーンは地面や野球用スパイク、ピッチングマウンドの隆起などから足にもたらされる摩擦力と垂直床反力から始まります。
オーバーハンドの投球中は、相互の関節モーメントがキネティックチェーンを通じて伝達され、下半身から始まり体幹を通り、ボールリリースでその力は頂点に達します。
腕のコッキング中の肩甲骨、上腕、および手関節周辺のコーディネーションのとれた伸張性筋活動により弾性エネルギーが伝達され、投球腕を加速する際の短縮性筋力が増大し、最大の運動エネルギーを投球腕にもたらします。
ボールリリースにおける手の最高速度は、MER(肩関節の最大外旋)とMER-M(肩関節の最大外旋モーメント)、およびピークEEV(ピーク肘関節伸展速度)の大きさと相関関係があります。
投球時の肘関節内側部における外反モーメントと内反モーメント(肘内側の主要な動的スタビライザーである尺側手根屈筋や浅指屈筋、および円回内筋の活動張力、筋力、および持久力が野球肘予防には重要になる)
外反ストレスの影響と肩関節の最大外旋
肩関節の外旋が大きいほどボールの速度が速くなることが報告されていますが、外反ストレスも同時に増大します。
したがって、MERの柔軟性を増進するエクササイズは利益と禁忌の両方をもたらします。
オーバーハンドの投球では、通常、肩関節の内旋可動域が小さくなると外旋角度が大きくなりますが、これは靭帯、腱、関節包の集合的な適応(前部の緩みと後部の硬さ)のためです。
この状態は一般的に、肩関節内旋制限(GIRD:Glenohumeral Internal Rotation Deficit)として知られています。
GIRDは関節窩周りの上腕骨頭が上部へ移動することにより起こりますが、これはより大きな肩関節の外旋をもたらす一方、関節包前部と筋の弛緩を増大させます。
外旋の不安定性が増すと外反ストレスによる負荷が増大することにより、上部-唇部-前部-後部の損傷リスクが一層高まります。
上腕骨捻転(近位と遠位の軸の逆転)は、より大きな肩関節の外旋運動と伸張性ブレーシングの低下に伴って増加しますが、それは、両者がともに起こることにより、前腕の慣性効果が高まり、増大した前腕の慣性力は、肘関節の動的安定筋群に一層負荷をかけます。
投球時の肘内側傷害の原因(コッキング期後半と加速期における内側モーメントにより上肢が前方へと加速され、肘内側への非常に大きく反復的な外反力が加わる)
内反トルクの重要性
内反トルクの安定性は、投球中に腕が前方へ加速する際のUCLへの負担を軽減します。
したがって、大きなMERをもつ投手は、内反トルクの安定化トレーニングが重要になります。
肩のメカニクスと収縮機能を改善することによって、外反の大きさと負荷の程度を一層低減できるとされています。
スポーツバイオメカニクスの研究から得たエビデンスもこれを裏付けており、肩関節の水平外転運動と外旋速度の正の相関関係により、肘関節の外反ストレスが増大することが明らかになっています。
投手の投球障害予防(肩関節内旋筋群と肘関節屈曲筋群の強化は加速と減速をより適切に制御できるようになり、内側牽引(高力橈骨小頭接触)、および後部内側剪断(骨棘形成)を制御する)
引用・索引Aguinaldo A,Chambers H.Correlation of throwing mechanics with elbow valgus load in adult baseball pitchers.Am J sports Med37:2043,2009.